ユーコさん勝手におしゃべり

3月21日
 日差しがあっても風が冷たい。
 車が桜まつりののぼりが並ぶ川の土手沿いを走る。強風にあおられ、のぼりはバタバタ音をたてていた。染井吉野にまだ咲く気配はない。
 暖かさが続き早い開花が見込まれていたのが、大逆転の寒気で例年並みに引き戻された。
 雨がちの季節の変わり目、天気の良い日は近隣の川土手を自転車で走ったり、車で社会科見学に出たりする。
 今日は車で埼玉と千葉の県境あたりへ行った。計画を立てるのはいつも店主で、いくつかの行き先とルートと食事がセッティングされている。たとえ半日でも、休日は遊びきらないと気がすまない性格なのである。そこがどこでも周りを見て半径数メートルの楽しみを見つける行き当たりばったりの私とは正反対だが、故に何となくうまくいっている。
 車は手賀沼のほとり、北千葉導水路のビジターセンターについた。
 利根川から取水して浄化後、手賀沼に送り江戸川へ流す施設である。ビジターセンターの大きな窓から着水井という池が見下ろせる。
 すぐ眼下にアオサギがいた。いつも水際にいる印象のサギが、水面まで数十センチあるコンクリート台の上にスックと立っている。覗いているとビジターセンターの警備員のおじさまが教えてくれた。対岸に羽を伸ばしてくつろいでいるカワウがいたのだ。
 このカワウが着水井で魚を捕る。たまに魚が大きすぎて呑み込めないことがある。それを吐き出すと、すかさずアオサギがいただくそうだ。
 このごっつぁん方程式は、釣り人とサギの間ではよく見る光景だが、カワウとアオサギでも成り立つとは。警備員氏曰く、「これが本当のサギ行為。」
 着水井を見て、施設を一周し帰る時もまだ、カワウとアオサギは共に着水井のほとりに陣取っていた。
 鳥といえば、ちょうど一週間前、荒川土手でツバメを見た。土手を自転車で走っている時、視線のはじからはじをツィーっと横切った。振り返ってももう見えなかったが、独特のシルエットは間違いなくツバメだった。あれから寒さや風雨が続いたけれど、ツバメは元気にしているだろうか。今年も駅舎にやって来てくれるかな。
 小庭ではチューリップの最初のひとつが、咲き出した。

3月14日
 カメ目覚める。
 暖冬ながら長い冬だった。
 あたたかだった2月から急変して寒い3月、ハクモクレンが淋しそうにみえる。いつもなら、「あ、開いた」 と心おどる春を告げる花なのに。
 おとといも北風が冷たかったが、満開となった河津桜を見に、埼玉県幸手の権現堂桜堤へ行った。
 土手の地面にオオイヌノフグリの青い花とペンペン草の白い花が星のように広がって、銀河の上を歩いているみたいだった。 天には河津桜のピンク、その上の青空、地に星、遠景に菜の花畑のあざやかな黄色がみえる。
 「この北風がやんだら、カメを冬眠バケツから出そうね」 と店主と話した。
 そして今朝、小庭の北側にひっそり閑と置いてあった冬眠バケツのフタを開ける。深いポリバケツから、たくさんの落葉と泥水の中で寝ているカメを掘り出す。
 「生きててよかったね」 と再会を喜ぶ人間に対して、カメさんは眠そうに薄目を開けた。寝起きのカメはタワシでごしごし洗われても無抵抗で、小庭に出した水桶の中でボーっとおとなしい。
 小庭の前の道を通りかかったカメの知り合いの人が、「アラ、起きたのね」 とさっそくカメに声をかける。何にも喋らないけれど、首を出して話を聞いてくれるカメには友だちが多い。カメを出し小庭を整えている間に、何人もの人がカメにあいさつし話しかけて行った。
 気温も上がって目の覚めたカメは、自ら動き出し、水槽から出ていつものお立ち台にのぼった。
 青木書店の横の小庭にも、ようやく春がやってきた。
 先日、買い物帰りに通りかかった武道用具店のウィンドウに、「おそらく3月〇日・〇日お休みします」と手書きの貼り紙があった。春は様々なスポーツイベントがある。何かの大会で勝ち上がる見込み、なのかな。決勝トーナメントまで行ったら来てください、と依頼されているのかな、と想像した。がんばってその日休みになるといいな、と誰とも知れないアスリートを応援した。
 いろんなことが動き出す。急ぎ足かと思った今年の春は、案外ゆっくりやってきた。

2月のユーコさん勝手におしゃべり
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