ユーコさん勝手におしゃべり

5月21日
 スズメもツバメも大忙し。
 雨がよく降り気温も低めだった気候が、ようやく軌道に乗り始めた。堀切菖蒲園駅の改札脇が春から工事中で、今年は来ないかなと思っていたツバメは、例年通りやって来た。せっせとヒナに給餌している。
 お客様へ送る本をもって駅前の信号を渡り郵便局へ行く途中、普段なら短いほうが良い信号待ちが、ツバメのおかげで楽しみな時間になる。
 早朝はスズメの声がうれしい。店の前の道には電柱が立ち、三階の高さに変圧器がある。朝、店の三階の窓をそっと開けると、変圧器の下のパイプの中からたくさんの声がして、その下でスズメが一羽、周りの様子をうかがっていた。意を決して垂直上方に羽ばたき、パイプの中に入る。にわかに声はにぎやかになり、また静まる。 親鳥はパイプ内から出て、もとの場所におりた。
 自分の小さなくちばししか輸送手段を持たないスズメは、もらえなかった子たちの チー、チー、という切ない声を、首をかたげて幾度も聞きながら、飛び立った。
 変圧器の近くの電線にカラスがいる時は、巣には入らず、小さな身体をおもいきりふくふくと膨らませてカラスを威嚇する。カラスが飛び立ってもしばらくは警戒して電線上を歩き、少しずつ体をもとのスリムサイズに戻してから、変圧器下のパイプへ入った。
 どんなに心配しても、自分の身ひとつしか武器はない。子が何羽いても、自身のくちばししか輸送手段はない。
 素朴なスズメのいとなみを見ていると、様々なことが思い浮かんで、頭がいっぱいになる。
 そのうちスーパーの開店時刻になり、自転車に乗って買い物に出た。買い物が終わって外へ出たら、雨が降っていた。駐輪場のひさしの下でしばらく待っていたが、雨はやまない。仕方なく荷物にビニールをかけて出発する。ビショ濡れで自転車をこいでいると、幼児のはしゃぐ声が聞こえた。
 「わー 水だ 水だ」
 レインコートを着てかわいいカサを持って、足元の小さな水たまりや天から降る水と遊んでいる。うしろを歩くパパに、「水だよ」と教えている。
 今日は土曜日だったな。保育園もお仕事もお休みで、雨さえ新鮮なのかな。人間も捨てたもんじゃないな、と明るい気持ちで家に帰った。

5月18日
 雨の多い五月、昨日も雨だった。傘をさして近隣を歩く。堀切菖蒲園へ立ち寄ると、
 「5月15日 一番花開花」の札がたっていた。今年の一番花は穏やかな花色の加茂万里だった。いくつもある菖蒲田のここに一輪、あちらに一輪と全部で三輪の ういういしい花を見た。
 雨ばかり降って少し憂鬱な五月だけれど、日照りより雨の似合う花もある。蓮池に色とりどりのスイレンが開いていた。
 そして今日は、久しぶりの晴天、日盛りに薔薇の芳香がして、五月の鼻の幸せを感じる。目に鼻に、五月の五感は忙しい。

5月11日
 店でのお客様との出会いは、匿名性と専門性が高い。
 まず、店舗へは名乗ってはいるわけではない。黙ってドアを開けて棚の並びを見る。
 特定の分野の本を的確にさぐりあててゆくお客様に、店主が声をかける。あるいは「○○」な本はありますか、と、お客様から声をかけられ会話がはじまる。
 そのお客様は、昭和のグルメガイド本を何冊か買った。テレビやインターネットの情報は、責任の所在がなくてあてにならないのだと、その人は言う。人が集まるばっかりの今はやりの店より、古い本に出ている店で、現在も変わらぬ形態で続いているところを探すのだそうだ。そして、目下のターゲットは、「うなぎ」だという。

 「コロナ禍がはじまった年に、『国民一人当たり10万円給付』があったでしょう。あれね、銀行に入るけどそのままじゃダメだろうと思ったんですよ。経済をまわすための政策なんだから、使わなくっちゃって。 それでただ何となく日常の中で消費するんじゃなくて、『これに使った』ってわかることに使おうと思ったんですよ。 普段食べなくて、わざわざ食べに行くもの、と考えて、『うなぎ』に決めたんです。10万円分うなぎ食べようって。 それも東京の有名店ではなくて、郊外に行けばより安価で良心的に食べられるし、その土地まで足を延ばすことによって風土の勉強にもなって面白いからね。」

 店主の好奇心がお客様の知識の引き出しを開ける。引き出しの中は深くて長く、かくし扉がいくつもある。
 というわけで、そのお客様との出会いから、昨日うなぎを食べる小さな旅に出た。もちろん行き先は、お客様イチオシの店である。車に乗って常磐自動車道で埼玉を抜け茨城へ。田植えの真っ最中の田んぼが続き、牛久沼があり、風景がどんどん「うなぎ」に近くなってゆく。
 うなぎもお新香も 程よい店構えも満足で、一日たっぷり散策を楽しんだ。
 イチオシ店リストは大事にとってある。実は、二度目にいらした時、「行ってみました?」と聞かれたのだが、その時はまだ出かけていなかった。
 今度、名を知らぬ食通のお客様が来店した時には、「一軒 行きましたよ」と報告できるし、さらなる成果を聞いてみたい。

5月7日
 いったい脳みその中はどうなっているのかな、と思うことがある。
 本を売ることを仕事にしているが、本を読むことは仕事ではないから、その時々に読んでみたいなと心ひかれたものを、ランダムに読んでいる。
 就寝前の愉しい時間なのだが、たまにページが進んでも文が身に沁み込んでこないことがある。たいてい何冊か併行して読んでいるので、自然とそちらは手に取らなくなって途中のページにしおりを挟んだままになったり、字面だけはさいごまで追っていっても読了感がないまま放置されたりする。
 デジタルの文章ならそのまま忘れられるところだが、本は物体として身の近くにあるので、何年もたってからふとまた手に取ってみる。
 それを読み始めたきっかけや、書評や解説文のいうほど面白いと思えなかったことなど思い出しながら、ページをめくる。おはなしは忘れているので、扉からやり直しである。
 すると、内容が頭に入ってこなくて時間がかかった前回より、早くページが進むのだ。
 確かに一度読んだ文ではある。でも自分では覚えていない。覚えていない(と思っている)けれど、知ってる世界になっている。放置されていた間にも、脳みそのどこかにこの文章がしまわれていて、時を待っていたのだろうか。
 そんなことで、リルケの「神さまの話」を、も一度読んでいる今宵である。

5月5日
 朝、自転車や徒歩で散策に出る。荒川土手の草原でてんとう虫をみつけると、持参の不織布の袋に入れて連れ帰る。
 花々が狂おしいほどに満開だ。街路のツツジに公園の藤、歩道のパンジー。つぼみとつぼみの間から、われもわれもと次のつぼみが開いてゆき、こんもりと渋滞がおきている。
 店横の小庭でもゴールデンウィークを目安に春から夏への植え替え用の苗を買ってあるのだが、春の花が衰えを知らぬ間に、苗置き場の夏の花が咲き始めた。
 雨ではじまったゴールデンウィークは、降っては晴れ、晴れては降りを繰り返し、そのたび一歩ずつ季節が進んだ。それに合わせて少しずつ、プランターをひとつ、ふたつと植え替えている。写真に撮っておけば、間違い探しができるな。
 ジャスミンの香りが日に日に強くなってゆく横で、ハニーサックルのつぼみが芽吹き出す。
 てんとう虫がよく働いている。
 風薫る五月の小庭で、草木の健康を守ってくれる彼らは、自分で連れてきたのになかなか見つからない。みかけると、「ありがとうね」と声をかけている。

4月のユーコさん勝手におしゃべり
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