ユーコさん勝手におしゃべり

12月22日
 今年さいごの満月が、大きな姿をあらわした。
 カレンダーには23日が満月と書かれていたが、22日の月は、ほぼ円だった。きっと14.○夜の月で、日付が変わるころ15夜になるのだろう。
 22日は店を休んで、栃木県粟野へそばと温泉を求めて出かけた。地元のそば打ち名人のおばあさんたちが土日だけ開けているそば屋さんが目当てだったのだが、店の前にあった野菜の直売所は更地になり、店はもうやっていなかった。広めの敷地にはポツンと建物だけ残り、ブルドーザーが入っていた。
 そばのおいしい別の店に入り、聞くと、もうしばらく前にやめたそうだ。
 最近何軒かこういうことが続いた。年号も変わるし、世代交代の時期なのだ。うしろだての小さな店は生き残りにくい世情になっているのかもしれない。
 山あいの温泉は、今までどおり、良いお湯が湯舟を満たしていた。芯まであったまって、月を見ながら街に下り、佐野ラーメンに舌鼓を打って帰路に着いた。
 北関東の美しい月を車窓に見ながら、横浜に住む父にケータイ電話をかける。
 「月がまん丸だね。」 というと、
 「こっちは、さっきまで雨だったから」 という。
 そういえば、天気予報で、関東沿岸は雨模様になると言ってたっけ。

 おはなしでは、離れていてもこの同じ空、同じ月を見ているんだと感慨にふけるシーンが出てくるけれど、離れていれば、見える空の色も月のあるなしも違うんだな、
 と、そのまま日常の会話を続けながら、頭の中で、それを新たな発見のようにたのしんだ。

12月12日
 近所のお寺で、蝋梅の花を見た。老熟した葉のない幹に、かわいい黄色の花がポッポッとともっていた。
 すっかり寒くなって、温泉が恋しい季節だ。休日に、車で1時間半ほど走って近隣の温泉浴場へ行った。
 鉄色の源泉に、熟年女性が3人、話しこんでいる。
 「…なのよ」 「そうよねえ…。」
 と、お互いに積年の悩みがあるらしい。
 ちょっと離れたところで しみじみ湯舟に浸かっていると、若い女性が4人やってきた。源泉は全体茶色く、段差がどこにあるか見えない。
 「え〜、わかんない」 と笑いさざめく。
 「あー、きもちいいー」 と声をそろえて大笑いする。
 何もかもが楽しいようで、少し話しては キラキラ笑う。
 一人の私の右と左に、二つのグループがそれぞれ親しんでいる。
 来た道、ゆく道、どちらも愛おしい。
 浴場の庭には、ツワブキがたくさんあり、緑の葉からすっくと伸びた茎に、黄色い花が咲いている。風雨に耐える多年草のこの根があってこそ、鮮やかな花々が見られる。
 温泉に満ちる声のこだまに、癒された。

12月9日
 亀は冬眠。
 いつまでも続くように思われた小春日和も、12月の声を聞くと終わり、暦どおりにサザンカ梅雨がやってきた。そして、12月の第2週は 寒波とともにはじまった。
 家の中でボーっとしていたカメも、数日前から動かなくなった。
 昨日、小庭のプランターにビオラの苗を植えたついでに、カメの冬眠バケツに黒土と水を入れ、今朝、カメをそこに入れた。
 冬眠用に用意していた桜やもみじの葉の入ったビニール袋をあけると、ふわっと良い香りがした。赤や茶色の冬眠布団をカメの上にどっさりかけて、ふたをする。
 これ以上の寒さを知らず、深く眠って、春 チューリップの咲く頃、目の周りと口もとをほんのり桜色に染めて目を覚ますだろう。
 場所は日影のポリバケツの中だけど、カメはまるで、冬の間は南半球にクルーズに行っている有閑マダムのようだな、と思った。

12月4日
 12月に入って、天気が定まらない。1日の間にも雨が降ったり 陽がさしたり めまぐるしく、予報もはずれがちだ。
 今朝、曇天の中、メタセコイアの黄葉を見に自転車に乗って、都立水元公園へ行った。公園内はサザンカの花盛りだった。 鮮やかな色が目をひきつける。
 飼い亀の冬眠用に落ち葉を拾って、持参のビニール袋に詰めた。赤いもみじにサクラの葉、黄金色のいちょうにオレンジ色のメタセコイア。袋はいっぱいになった。
 雲の間から陽がさしてくると、ぐんぐん気温が上り、上着を脱ぎ手袋をはずす。
 ひろびろと景色はすばらしいけれど、目に入る紅葉やサザンカの花と、体に感じる気温が不釣合いで、不思議な感覚だった。
 お昼に店に戻った。外から店内に入ると、まるでクーラーをかけているようだ。冬に室内より外の方が暖かいのも、湿り気のある南風が吹くのも、異例のことだ。
 今日は各地で12月としては記録的な高温で、夏日になったところもあったらしい。
 上空は寒気と高気圧がせめぎあっているそうで、明日のことは、明日になってみなければわからない、奇妙な12月のはじまりとなった。

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