ユーコさん勝手におしゃべり

11月27日
 朝夕の冷え込みも厳しくなって、すでに葉の落ちた木も増えた。そこで今週は、今年の紅葉見納めの旅へ出ることにした。行き先は茨城の花貫渓谷。以前行った時は、紅葉の遅い年でまだ木々は緑だった。今年は先週くらいが見頃となったようだが、ハラハラと散り降る頃もまた良い。実は紅葉に執着する目的のひとつは、飼い亀の冬眠のためのふとんのしつらえだから。
 朝6時過ぎに家を出る。高速道路を走るうちに雲の間から太陽が昇った。きらきらと良い日になりそうだ。
 目的地花貫渓谷ではもみじを堪能、赤い落ち葉を持参のビニール袋に少しいただく。花園渓谷にも足を伸ばそうと進路をとる、が、途中の景色もどこも見事で、寄り道の間にビニール袋の中は、欅、銀杏と葉が増えていく。
 太平洋を一望できる丘に登る。茜平というところだそうで、設備の整った公共施設があり、陽あたりがよく見晴らしは最高。ここで海と緑と紅葉を見ながらお弁当をいただく。「ここのつつじは見事なのよ」とおばさまハイカーが話す声が耳に入る。丘の斜面にはびっしりつつじが植えられていた。来春を想像すると楽しくなった。
 心もおなかも満足して、予約していた宿へ向かう。温泉につかってお魚三昧の夕食をとり就寝。目覚めてまたお風呂。温泉につかって、海から朝日が昇るのを見る。
 朝食の時、レストランの隣席に10人ほどのおじいさまグループが座る。
 「トマトジュースかオレンジジュースがつきますけど」と声をかけた仲居さんに、頭髪のないおでこにバンソコを貼った方が、「ビールないの」と注文した。まわりの数人とやりとりの後「中びん1本にグラス3個」と話がついて、仲居さんが帰ると、同じグループのおじさんが
 「10分前に『深く反省して…』って言ってたのに、もうこれだもの」 と笑いながら言う。「深く反省」の種はおでこのバンソコかな。場は終始なごやかだった。気の置けない仲間同士の会話に、つい耳がダンボになる。
 今回の旅、景色も食事ももちろん良かったけれど、一番面白かったのは、ふと耳に入った会話だったかもしれない。旅は、人がいるから、愉しい。
 帰宅したら、きっと仕事が待っている。明日本を贈る人と、今日もしかしたらすれ違っていたかもしれない。そう思うと、一冊一冊がうれしく、大切な本たちである。

11月11日
 「お宅のホームページに、(あるいは○○サイトの検索で) ○○という本を見つけたんですが」 という電話やメールを受ける。
 「見つけた」ということばに少しほおがゆるむ。
 もう7・8年も前にホームページに載せて、誰に顧みられることもなく、店や書庫に眠っていた書籍の場合が多いからだ。店舗にはそれ以前から鎮座していた。
 「見つけていただいて、ありがとうございます。あなたをお待ちしていました」と、本にかわって口に出したいところだが、そこは店員なので、事務的に郵送にあたって必要書類の確認などをする。
 世に本はあふれる程あるのに、自分を待つ一冊を捜そうとすると、なかなかない。
 そしてたまに、私にも、いつも歩きまわっている自分の店の中で出会いはおこる。今まで何とも思っていなかった一冊が、急に輝いて見えるのだ。本は変わらずそこにあったのだが、自分の興味や成長が、その本に手を届かせたのだろう。
 掘り出し物の一冊との出会いは、時をこえて、遠くにも、またごく近くにもある。

11月10日
 晩秋から初冬へ、あれよと思う間に季節は動いた。
 11月は例年より早い木枯らしとともにはじまり、急に来た寒さに「何を着たらいいのか」とおろおろしている間に1週間が過ぎた。店の外の水槽にいる亀も寒くて淋しげだ。
 11月に入ってやっときた小春日和の6日、朝から自転車にまたがって、葛飾区内サイクリングに出た。柴又方面へ進路をとり、帝釈天の参道を通って江戸川へ。江戸川土手を眺めながら、都立水元公園へ行った。目的は、亀のおふとんだ。
 亀はもうひと月ほどエサを食べていない。元気に動き回っているが、身体は冬眠準備にはいっている。
 毎年亀の水槽には、落ち葉のふとんを入れている。本格的な冬眠のときは土と落ち葉で亀を埋めてしまうが、その前にしばらく飼い亀と秋を楽しみ、冬の間のしばしの別れを惜しむ。今年は何にしようときょろきょろしながら園内をすすむと、あらゆる赤色の開示といった並木を見つける。木についた名札は「モミジバフウ」。聞き慣れない音の並びだが、漢字で書くと「紅葉葉風」か、と納得する。何十本もの木から美しいところを拾って、持参のビニール袋に入れて帰る。もみじよりも大きく開いて輝く紅色の葉は、亀のふとんにぴったりだ。少し薄い赤の桜の葉と合わせて水槽に入れた。
 水元公園のメタセコイヤの林はまだ黄葉が始まったばかりだった。今月末、東京の紅葉が最盛期をむかえる頃、亀は冬眠し、今水槽のある場所には、水仙とムスカリの鉢が置かれる。
 冬が来て、そして春にむかってゆくのが、今から楽しみだ。

10月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の
「おしゃべり」