ユーコさん勝手におしゃべり

4月25日
 梅の実がふくらむ季節なのだった。
 今日、自転車で所用に出たついでに、チーズケーキを買った。以前からおいしさで人気のお店が新装開店のセールをするというので行列ができていた。私も並んでお目当てのものを買い、ケーキの入ったビニール袋を前かごにのせた。
 帰り道、毎年きれいなしだれ梅の咲くお宅の横を通って、花がもう結実しているのを見た。
 店に戻ってコーヒーを淹れ、チーズケーキを味わった。仕事中の慌しい休憩なので、ケーキ屋さんの袋はキッチンの隅に置いたままだった。夜、台所を片付ける時、その袋をみると、中に小さな梅の実が二つ入っていた。黄緑の楕円形で、ほんのり赤い部分がある。全体がポヨポヨとしたうぶ毛につつまれた可愛い実だ。あのしだれ梅の実に違いないが、どうした偶然でここに入ったものだろう。しばらく眺めて楽しんだ。
 それを見ているうちに、今朝近所の古隅田川でカワセミを見かけたことも思い出した。身の回りにはいろんなことが次々起こり、気にしなければ次々通り過ぎてしまう。
 「ほら、こんなことがあったでしょう。忘れないでね」 と、一日を振り返らせる為に、梅の実がケーキ屋さんのレジ袋に入って教えてくれた。

4月23日
 裸だった街路のポプラが新芽につつまれると季節は晩春にかわる。
 咲き始めたつつじや藤の姿に、遅咲きのチューリップがあわてて花を開く。
 二日続いて好天で、二日続けてバイクで千葉へ行った。一日目は陸路で千葉市若葉区の富田都市交流農業センターへ芝ざくら見物に。二日目は東京ゲートブリッジ、羽田空港を通ってアクアライン経由の海の道でマザー牧場へ向かった。
 店主と二人乗りのオートバイの後ろに乗る。途中羽田空港ターミナルの道で店主が、「写真とってよ」と言う。出発ロビーのビル前に駐車している乗用車のうしろにバイクを停めて、デジカメを出し一枚撮った。
 前の車の扉があき5人の男性が出てきた。ビルから係りの人も出迎えに来た。
 「ずい分乗ってたんだな。VIPなのかしら」 と中心の若者の後ろ姿を見ると、腰紐に手錠であった。出迎えに来た人と目が合った。
 「取材じゃありません。偶然ですよ」 と頭の中で言いながらそそくさとバイクに乗り込んだ。
 アクアラインを通って千葉へわたる。水田には水がはられている。海から山へ入ると田んぼのあぜ道にキジがいた。
 昨日は畑作地帯、今日は一面の水田と、千葉の広さと地面の力を感じた。
 半日、新緑の山並みの景色と動物たちを見て、再びアクアライン経由で帰宅。店を開けた。日が長くなって、朝、出がけに書籍を発送し、自然にふれあい、帰宅後仕事をしてまた発送、と二毛作の生活ができるようになった。
 やってきた晩春、そして初夏に感謝。

4月18日
 雨の多い4月である。菜種梅雨というには冷たすぎる雨が週の半分は降っていた。たまに奇跡のように晴れると、そのスキをみて自転車やバイクに乗って花を愛でに出る。帰ってきて店を開けると、しばらくして空が暗転しヒョウまで降ってきたこともあった。
 一日の中でもめまぐるしく天候が変化する。またこの二日程は、気圧が乱高下し、偏頭痛持ちの私は体の中にも嵐が起こり、夕べはたまらず早目に就寝した。
 ふとんの中で、それでも「春が好き」と言えるかと自問する。答えは「Yes.」だ。
 春は私の最初の記憶だ。前後がなく断片的な記憶ならもっと幼い時からあるが、色つきのはっきりした思い出の最初は、地面の驚きだった。
 幼稚園の時に引越しをした。もともと畑だったという土地に建てられた家で、何の変哲もなかった土の庭にある日ピンクのじゅうたんがあらわれた。芝ざくらだった。芝ざくらと垣根のボケの花の色が私の確かな記憶の始まりだった。何もなかった地面に両親が好きなものを植えたのだろう。実のなる木もいろいろ植えられていた。子どもだった私は花の名前も知らなかったし、引越し作業の記憶も庭の手入れの記憶もない。
 芝ざくらのピンクはいきなり私の目にやってきた。そしていっぺんでその様子が好きになった。慣れない幼稚園での生活や、もろもろの記憶はすべて、その後に続いて始まっている。
 春は、自分の意識のはじまりの季節なのである。
 だから春が好き、負けないぞ、と痛む頭をかかえているうちに、薬が効いて眠っていた。
 今朝は上天気で、気分も上々だった。
 春が往く。桜の花が散るように、苦い思い出は散り去り、葉が生え葉も散り、また来年きれいな花が咲く木だけが残る。

4月5日
 今朝つばめを見た。堀切菖蒲園駅の駅舎で毎年1・2組のつばめが営巣する。そのつばめが、やってきた。まだ巣は建設途中らしく、忙しく鳴き交わしている。
 先月、千葉の佐原へ行ったときは、道の駅にたくさんのつばめが巣に出入りしていた。レンコン田に稲田と、巣作り用のあぜ土に恵まれ、体も大きなつばめたちだ。
 そして今日、今年初めてのそば食い旅で栃木へ向かった。
 天に地に桜が降り散る東京を出て、高速道路を北上すると、桜は梢にぴったりはりつき、満開のまま落ちる気配はない。レンギョウにハナズオウ、各色の桃に水仙、菜の花、花色は格段に増える。佐野藤岡のサービスエリアにもつばめが飛んでいた。
 高速道を降りて、鹿沼市粟野を目指す。まず目当ての店で大もりそばをいただき、山へ入って行く。車窓にあらゆる種類の暖色があらわれる春の気配だ。
 目的地の前日光つつじの湯に着くと、大木に白もくれんのつぼみがびっしりついている。東京ではもう終ったもくれんにもう一度出会う。つばめはまだこの山あいには来ていなかった。季節をさかのぼるタイムスリップを味わい、温泉に浸かって一番楽しみのそばをいただいた。

4月2日
 にぎやかに春が往く。
 数えきれないほどの花と、数えきれない驚きを伴って、
 目の前を春が往く。

 球根の埋まったところから、次々花が飛び出す。小さな蝶が花にとまる。
 毎年のことなのにいつも驚く。蝶の柄にはどれだけの種類があるのか。いったいどこから来ていつ卵をつけたのか、薄い灰色にオレンジの縁取りの蝶が、紫のビオラにとまっている。紫のテーブルクロスにレースのナプキンを置いたみたいだ。
 眠りから覚めた幼子のように、店横の小庭が手入れをせがむ。
 今見ないと一年出会えない景色を惜しんで、毎日うれしい忙しさで、目を耳を鼻を、手を足を動かしている。

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