ユーコさん勝手におしゃべり

1月24日
 夜、店を閉めようと思って外に出たら、雨の音がした。ちょうど降りはじめだった。
 昼間は晴れが続いている。「西高東低冬型の気圧配置」と天気予報がいうやつで、東京は乾燥した晴天が続いていた。見上げると毎日、「わぁ」と声を上げたくなるほど空がきれいだ。
 年が明けてから、傘を使っていない。雨のことなんて忘れていた。だから、雨の音にびっくりした。店先のテントにあたる音が「パンパンパン」と聞こえるから、少しみぞれまじりなのだろう。パリッパリに乾いた空気にちょうど良いお湿りだわ、と思って店を閉めた。
 そういえば昨晩も夜半に少し雨が降った。
 季節が動いているのだ。年末から寒波が続き、風は冷たいけれど、日ざしのまぶしさは増している。街で見かける花の色も増えてきた。
 植物は目に見えない地面の中や木肌の内で、春の公演に向けてパフォーマンスの準備をしている。「最近 日が長くなったね」なんて人には聞こえない声で、話し合っているのかもしれない。

1月18日
 休日、店主の買い物に付き合う。温泉付きである。
 温泉につられて喜んで付いて行くが、店主のドライブコースにはバイク店やその工具屋がびっしりつまっている。つまり私は車番要員である。でも不満はない。その間ゆっくり本が読めるからだ。普段店舗にいると、本に囲まれていても本を読む暇はないし、夜寝室には必ず本を持ち込むけれど、悔しいかな思う半分もいかぬうちに眠くなってしまう。昼間のうちに読書時間をもつのはなかなか難しいが、店主が店内物色中の車中は、静かなひとり空間だ。
 そこで今日のために、今気に入りの作家の本を一冊持って出たのだが、これが、画文集だった。そして思った以上にかろやかな内容のエッセイである。失敗した。
 これではすぐ読み終わって、今日一日もたない。
 せっかくの好機に本なしでは…。
 そこで、一気に読み終わらないように、途中でこうしてメモ紙を出してこの文章を書いている、という次第である。

 …そして果して、読み終わってしまった。どうするか、しばらくの思案ののち思いついたのは、「音読」であった。かくして今私は、バイクパーツ店の駐車場にとめた車の中で、エッセイを音読している。隣の駐車スペースには入れ替わり五台の車が出入りしたが、店主はまだ戻らない。朗読好きで、よかった。

1月11日
 松ぼっくりを煮る。
 連日の寒波が一休みして、穏やかな天候が一日だけやってきたおととい、三浦半島の先端、城ヶ島へ出かけた。城ヶ島公園の入口ゲートに「ご自由にお持ちください」という箱があり、松ぼっくりが入っていた。帰りにいただくことにして、まずは公園へ。
 この時期、天気がいいのが何よりのごちそうだ。ほどよく風が吹き、大きな富士山がくっきり見える。岩場で釣り人がメバルを釣り上げていた。水仙の咲く道と海辺を散策し、先ほどのゲートで松ぼっくりを三こ頂戴した。貝と岩でできた足元は、どこも歩くのが楽しい。海沿いの島一周を満喫して帰宅した。
 そして松ぼっくりである。これは飼いうさぎへのおみやげだ。
 松ぼっくりはかじり木用だがこのままだと虫がでてくるかもしれないので、熱湯とともに小鍋に入れて火にかける。防衛本能か、開いた笠は煮ているうちにキュッと閉じる。スマートになった熱々松ぼっくりを外で干した。よく乾くと、笠が開いて花のようになる。
 15歳の老うさぎ、今回も楽しく遊んでくれるだろうか。

1月2日
 年があらたまった。また一年がたち、年度だけが重なった。
 古書に囲まれて、十年一日のような暮らしをしている。最近は、百年前であれば少し昔、くらいの気分だ。
 机のまわりは昭和の本ばかりなので、昭和は活きている時だ。店に入ってきたお客さんに「○○の本ないですか」と聞かれて、平成になってからの出版物だと、「ああ、うちでは新しすぎて扱ってないですねぇ」と答える。すっかり慣れたその受け答えだが、平成になってから、もう丸22年がたっているのだと思うと、「新しすぎて」ということばに自分でおかしくなる。が、他に言いようもないので、そうこたえている。
 毎日、新聞を読みインターネットで商売をしているので、そう時代に遅れているわけではないと思うけれど、実は軸足は昭和や大正に置きつつ、現代の便利でおいしいところだけ手を伸ばしてつまみ食いしているような、不思議な感覚がある。
 ここ数年、1月2日は店主とバイクで「江戸東京博物館」へ行っている。入場後店主が、特別展の半券をジャンパーの内ポケットに入れようとして、「何か入ってる」と内ポケットから紙片を出した。それが、去年とおととしの江戸博の半券だった。
 博物館や美術館はたいてい電車で行くので、バイクで来るのは江戸博くらいだ。
 バイク用の厚い革ジャンの内ポケットはめったに使わない。
 それで以前の半券がそのまま入っていた、という三段論法だ。「十年一日」の観がまた深くなる出来事だった。

 ともあれ、本年も一冊一冊を大切に、お客様の許に届けたいと願っております。
変わらぬご愛顧、どうぞよろしくお願いいたします。

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