ユーコさん勝手におしゃべり

7月24日
 猛暑である。梅雨らしく雨の降る日が続いたかと思うと、先週末に梅雨明けとなったとたん一週間続けて、照ることはなはだしい。この分だと来春の杉花粉は大飛散になるのだろう。
 今朝外に出たら、扉の脇に、羽化したてのてんとう虫をみつけた。まだ色淡く、星はない。黄色の種なしスイカのような小さな半円。 しばらくしたら、飛んで行った。
 じりじりと焼き尽くすような暑さだが、こんな中でこそ育つものもある。
 なければいい季節なんてないのだな、とじょうろに水を入れ夏の花に液肥をやる。

7月19日
 書庫から店舗に、未整理の本を段ボールに幾箱か運び込む。手入れをして分類し、店舗に置いたりまた書庫に戻したりする。その本の山の中から時々、「オイ、これ見てみろよ」と店主の声がする。いわゆる掘り出し物だ。
 今日の一冊は「大法輪 昭和20年5-8月号」。表紙も中身も同じ紙を使っていて、紙不足の時代をうつす。印刷・昭和20年8月28日、発行・9月1日、時が時だけにまず、編集後記を見ずにはおれない。
 「本号を校了にせんとする八月十五日、畏き大詔を拝した。」から始まる文章の一部を引用する。「米軍の使用した原子爆弾はその結果からみて如何にも惨忍な兵器であつたにはちがいないが、戦争それ自体すでに常識的観念では律する能はざる惨忍な行為であり、まして近代戦局の様相が、科学の粋を聚めて相手方の戦意と戦力を破摧せんとする武力行動である以上、斯の如き新兵器を発明し且つ製作し、使用することに成功した米国の科学力に比し、遺憾乍ら我等はヒケをとつてゐたことをまづ率直に認めねばならない。」
 また、この本の最終頁に「転居御通知」欄が設けてあり、発行人名で「去る五月二十五日、日比谷内幸町の社屋及び倉庫を焼失し、赤坂区青山の小生自宅もまた同日同時類災の厄に遭ひましたので、当分の間左記の所に仮事務所を置き併せて小生居所も兼ねてをります。」云々とある。
 紙がなく、書き手もまたそれぞれつらい日々を送っている中、とにかく本を発行せんとする志が誌面から伝わってくる。そして発行日からして、この編集後記、はじめからこの文だったわけではあるまい。ギリギリになって書き直したこの稿の前に何とあったのか、書き直すにあたり、どう自分を立て直したのか、考えさせられる。
 この号、巻頭は朝比奈宗源老師の『戦局と道義』5頁である。戦争中に執筆したものだが、そのまま掲載され、編集後記によれば「戦後の今日もその趣旨は変ずることなく、(中略)篤と味読し、戦後方策の指針とせられむことを希望する」とある。
 この本が出版され、こうしてここに残り、薄い粗末な製本から湧き立つような力を発している。その存在自体に合掌したい。
 雑誌のバックナンバーは、詳細欄にも著者欄にも書かれないようなこと(例えばこの本の編集後記や小口の不揃いな断裁)の方にこそ価値がある、と再認識する。
 コンテンツコンテンツ、と言っているデジタル書籍は、こういった些細で重要な部分を、どう処理してゆくのだろうか。

7月14日
 暑中お見舞い申し上げます。
 今夏もお客様に、自筆物をお届けできることをうれしく思います。本年は153点を新たに加えました。「自筆草稿・書簡類」でご覧くだされば幸いです。

7月13日
 育つさまというのは見ていて飽きない。
 ここ一カ月ほど、駅前で信号待ちをするたびに、つばめの巣を見上げていた。最初は黄色いつばの黒帽子のように巣の淵から子つばめの頭だけがのぞいていた。時々かすかに薄黄色いくちばしを開け閉めする。たまにおしりを外へ向けてゴソゴソしている奴もいた。
 それがもう、子つばめは親と見まごう程の体格となり、頭頂部がのぞくだけだった身の丈は、体半分巣から出るようになった。
 今見ておかないといつの間にか行ってしまうと知っているから、信号が変わるまでの少しの間はいつも一人観察会だ。格別事件が起こるわけでもないが、目が離せない。

7月12日
 世の中には、ものをためこみたい人と片付けたい人がいる。どちらかというと古本屋は、ためこみたい人の味方だ。店主や店員は、もともと「何でもいいから集めたい」タイプの人なので、古本屋の客となる人に理解が深い。
 しかし、世の中に二つのタイプの人は半々ずついるのだ。ためこみたい人は男性に、片付けたい人は女性に多いかと思う。興味がないうえに、整理が好きな人にとって、古くてかさばる本たちはやっかいものだろう。それがいつ見ても、いつの間にか増えているのだから、対価のこともからんでけんかの種にもなろうと察する。
 本を注文してくださるお客さまからのメールのはしばしに、そういった事情がかいま見られることがある。
 うちの店のウィンドウには、啄木のこんな文のコピーが貼ってある。
 「本を買ひたし 本を買ひたしと
  あてつけのつもりではなけれど、
  妻に言ひてみる        啄木」

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