ユーコさん勝手におしゃべり

6月28日
 怒涛の六月がゆく。
 梅雨入り前には爽やかな晴天があり、麦秋と青い稲田のコントラストを見に北関東へ小さな旅に行った。様々に花が咲き、地元では菖蒲祭りがはじまり、にぎやかに祭りは終わった。駅舎のつばめの子は大きくなり、夜見ると親はもう巣からはみ出して休んでいる。
 店の横の小庭も春から夏へ少しずつ季節が動いた。花が増えれば虫も増加する。葉や花を食べるのであまりたくさんいると困るけれど、基本的にはウェルカムだ。
 朝、ハンギングプランターからコンクリの地面に黒い小さなフンが落ちている。「あ、今年も来たな」と思う。だんだんにコロコロのそれが大きくなって、やがて落ちてこなくなる。今朝、おわった花の花柄摘みをしていたら、あげは蝶がひらひら来た。しじみ蝶もいて、花壇の上を何度も周っている。「いっぱい食べな」と声をかけたことのごほうびかな、と勝手に考えている。昨日はむくげの最初の一輪が咲いているのをみつけた。最初の一輪に今季も出会えたことに感謝。
 しかし、梅雨時はいいことばかりではない。古本屋の大敵、湿気がくるのだ。少し前まで雨さえ降らなければ開け放っていた窓を、湿度計を見ながら調節しなければならない。昨日は湿度が急上昇したので建物中の窓を閉め、無人の部屋にもクーラーをかけた。特に書庫は、シャッターの開閉にも神経質になる。
 店主曰く、「この中には、人より本の方が多く住んでいるからな。」
 そして、もちろん人より本の方が、よく働いている。

6月4日
 「昨日、店の前の道で『いいベルトしてますねぇ』って声かけられちゃった。」 と店主が言う。
 「?。誰に?」 と聞くと、「ベルト屋さん」 と言った。
 店主には地元の地場産業展で出会って懇意にしているベルト屋さんがある。
 「じゃあ自分のつくったベルト?」 と聞くと、「そうだよ、コレ」 と今日もしている青い革ベルトを見せた。「やっぱりベルト屋はベルトに目がいくんだな。いいベルトだって思ったんじゃない」 と店主が言う。
 「自画自賛だね」と笑いながら、自分に誇れる仕事があるっていいなと思った。
 そういう職人さんが住んでいる町に暮らしていることをもまた、うれしく思う。
 昨日の朝、江戸東京博物館に龍馬展を観に行った。ひととおり見て、土産菓子の売店をのぞくと、ウィンドウに中に、見覚え食べ覚えのあるものたちが、箱におさまり行儀よく並んでいた。信を持って続けてきた菓子職人さんたちに敬意を表しつつ、帰り道、バイクでそのうちの一軒に寄り、志満ん草餅をバラで二つ買っておやつにいただいた。美味。

6月1日
 5月のさいごの日、もう機会はないかと思っていた不揃いいちごの特売に出会ったので、大きいの小さいの曲ったのといろいろ入ったパックを4つ購入した。いちごジャムをつくるのだ。
 日ざしは初夏のまぶしさを増してきた。このジャムが春の愉しみの最終便となるだろう。
 直径30センチの、うちで一番大きな鍋の中、さとうとレモン汁をまぶされて火にかけられたいちごは、ルビー色の液体となり芳香を放つ。目で楽しみ、鼻で楽しみ、次の日からは味わいを楽しむ。
 誰と誰にあげよう、と考えながら、小ビンやタッパーを調理台の上に並べる。さしあげる人を思い浮かべながら、でき上がった液状のジャムと果肉を入れものに流し込むのもたのしい。
 いちごはゆく春を惜しみながら、ビンの中でゆっくり凝固していく。

5月のユーコさん勝手におしゃべり
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