ユーコさん勝手におしゃべり

5月25日
 てんとう虫の羽化を見た。以前この欄にてんとう虫の幼虫のことを書いた。そのうちのいくつかが蛹になった。最初はプランターに寄り集まるようにかたまっていたのを、てんとう虫(成虫)かと思ったが、よく見ると柄が幼虫のままで、成虫はまん丸だが楕円形だ。蛹か、と気付いて、時々様子を観察していた。
 すると今日の夕方、そのうちのひとつのすぐ横に、真新しいてんとう虫が、いた。星は無い。ただの薄オレンジ色のまん丸で、外側のかたい羽の下から薄い羽がちょろりとはみ出している。動きもしないが、触るとつぶれてしまいそうなので、見ているだけ。
 昨日は一日大雨だった。どんな天候でも日々着々と成長してゆくものはいるのだなぁ。
 店舗が終わって店を閉めてから見に行ったら、もういなかった。「明日は 君か?」ととなりの蛹に聞いたが、答えなかった。

5月18日
 よい香りに感謝しつつ、脚立に上り、盛りを過ぎたジャスミンの伸びすぎた枝をはらった。アーチをはい上るジャスミンの花の下には、時計草のつぼみの連なりがみえる。そのひとつがもう今にも開きそうになっていた。「今年の時計草のさいしょのひとつは君だね。」
 季節のリレーに立ち会った。

5月16日
 気持ちよく晴れた朝、店主とバイクで小石川植物園へ散策に行く。小石川植物園は庭園ではなく林のおもむきで、道もあるようなないようなところがよい。
 入口の受付の方が以前行った時の店主のバイクを覚えていて、声をかけてくれた。しばらくオートバイ談義をして入場。大樹にいやされる。
 一周ぐるりと回って帰り際、ヘルメットをかぶっていると先ほどの受付の方が、「山桑の実がなっているんですよ」「こっちこっち」と教えてくれた。頭の中で夕焼け小焼けの歌が鳴ったが、実際の桑の実を見たことがなかったことに思いいたる。入場門扉の裏手の方に、赤いかわいい実がぎっしりみのっていた。「ラズベリーみたいですね」といったら、「そうそう。もう少しして紫色になったら摘んで食べられるよ。甘くておいしいですよ。」と教えてくれた。桑の実のジャムは見たことがあるが、生は未知だ。興味あるなあ。
 知らないことがたくさんある。知っていることは数えられるが、知らないことは数えられない。
 先日群馬へ出かけた。季節をさかのぼる北関東の旅だ。標高が上がると景色がかわり、中之条から四万温泉へ行くと八重桜が満開だった。八重桜と山藤に新緑と天候不順で充分味わえなかった春を、もう一度おさらいした。そして旅のメインは群馬昆虫の森だ。小石川植物園が林なら、昆虫の森は山と原っぱだ。ここでも新しいことをひとつ知った。てんとう虫の幼虫。最近プランターの葉の上でよく見かける黒地にオレンジのラインの小虫を「何だろう」と思っていた。小さいけれど強くて悪そうな配色だ。昆虫の森のプレートでてんとう虫の幼虫とわかった。油虫を食べてくれるそうな。卵は知っていたが幼虫の姿は知らなかった。
 名前を知らなければよそ者だが、知れば友達だ。少しずつ知っていることが増える喜びに、ほおがゆるむ。

5月6日
 朝扉を開けて外へ出たら、鼻の中いっぱいにジャスミンの香りが飛び込んできた。アーチのてっぺんはジャスミンの花でまっ白だ。
 今まで「おいしいものを少しだけ」しか食べなかった飼い亀が、朝から「何かくれ 何かくれ」と首を伸ばして、ゴミを出したり掃除したりする私の姿を目で追って、水槽の中を移動している。
 伸びすぎた枝や、満開の花の中で眠る終わった花が、手入れを待ってあっちこっちで私を呼んでいた。
 うれしい忙しさの春が、いつもよりひと月遅れてやってきた。すごろくのコマがひとつ進んだ。でもこのすごろくは循環しているので、あがりはないし、勝敗もない。
 ただ「継続は力」ということを教えてくれるだけだ。

5月5日
 自分はいったい何をやっているのだろうか。すっかりとり残されているのではないだろうかと考える時がある。紙の本と本と本の間に囲まれ、黙々と作業をしている。いつ果てるとも知れぬ量で、いつはけるとも知れぬものたち。
 なかなか春になりきらないゴールデンウィーク前の陽気もあいまって、不安に駆られていた。
 そして5月の幕があき、春はいっきに押し寄せてきた。陽は輝き、花はいっせいに開いた。うつとした気分をかかえながらも、ひざしに押されて郊外へ出た。
 都内から4号線をバイクで北上する。景色はどんどんかわっていく。元荒川沿いを走る。用水路を水は流れ、田に水がはられてゆく。畑を耕す人がいる。ビニールハウスの中でトマトは着々と赤みを増していた。
 風に吹かれてゆくうちに、狭い扉の中で煮詰まっていた気持ちがどんどん軽くなった。
 紙の本はこれからどうなるのかと世間では物議をかもしている。時代に逆行しているように感じられても、「時代」といわれるそのものが幻想かもしれない。
 やり続け、好きでいつづけることに自身の価値はある。
 もう一度、ぐっと両足に力を込めてふんばる力を、初夏に向かう田畑が与えてくれた。

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